狩猟にサーマルは使える?|キジ・カモ猟で分かった得意な条件と弱点
ナイトビジョンとの違いから、鳥猟での発見力・限界・使いどころまで整理
狩猟でサーマルは本当に使えるのか。ナイトビジョンとの違い、キジ・カモの発見、羽毛による影響、探索時間、目視確認の必要性、NETDまで実猟経験をもとに解説します。
サーマルとナイトビジョンは何が違う?
サーマルカメラというと、夜間に動物を探すための機材という印象が強いかもしれません。
しかし、ナイトビジョンとサーマルは原理がまったく違います。
従来型の増倍管式ナイトビジョンは、月明かりや星明かりなどのわずかな光を増幅して映像を作る機材です。本来は暗所用で、日中の強い光にさらすと増倍管を傷める可能性があるため、基本的に日中使用には向きません。
ただし、現在はカメラセンサーを使ったデジタルナイトビジョンもあり、昼夜兼用の製品もあります。
一方、サーマルは反射光ではなく、物体から放射される赤外線エネルギーの差を画像化します。そのため、完全な暗闇でも明るい日中でも使用できます。
ざっくり言えば、ナイトビジョンは「暗い場所を見る」ための機材、サーマルは「周囲との温度差から探す」ための機材と考えると分かりやすいでしょう。
この記事で扱うのは、夜間装備としてではなく、日中の鳥猟でサーマルを索敵に使えるかという話です。
鳥猟でサーマルは使えるのか
結論から言えば、鳥を発見する道具としては使えます。
私自身、実際のキジ猟やカモ猟へサーマルを持ち込んで試しましたが、肉眼や双眼鏡では見落としそうな鳥を発見できる場面がありました。
特に、枯草の中、二番穂の中、日陰、水際、オーバーハングの下など、鳥の色や模様が背景へ溶け込む場所では効果を感じます。
肉眼や双眼鏡は主に色や形で鳥を探します。サーマルはそこへ「温度差」という別の情報を加えることができます。
鳥は羽毛に覆われているのに、なぜ見える?
鳥の羽毛には高い断熱性があります。
そのため哺乳類のように体全体が強い熱源としてくっきり見えるとは限りません。
それでも、頭部、脚、羽毛の薄い部分や羽毛表面には背景との温度差が生じます。
感度の高いサーマルなら、このわずかな温度差を拾って鳥の輪郭を作ることができます。
つまり「羽毛があるからサーマルでは見えない」のではなく、「羽毛があるため、背景温度や機材性能の影響を受けやすい」と考える方が実態に近いと思います。
サーマルが得意なのは「発見」
鳥猟でサーマルが最も役立つのは、そこに何かいることを見つける工程です。
例えばキジは、枯草や土、二番穂の色へ驚くほどきれいに溶け込みます。
双眼鏡でも「そこに鳥がいる」と分かっていなければ見逃すことがあります。
サーマルなら、その場所だけ周囲と違う温度分布として現れるため、「何かいる」という違和感を拾いやすくなります。
私が実際に試したときも、双眼鏡では見落としていたキジを、先にサーマルで発見したことが何度かありました。
でも「見つけられる=猟で有利」とは限らない
ここが、実際に使ってみて重要だと感じた部分です。
サーマルを使うためには、取り出す、覗く、周囲をスキャンする、怪しいものを探す、という時間が発生します。
つまり、サーマルを使えば発見能力そのものは上がっても、獲物を探すための作業時間も増えます。
例えば朝一番にキジが畑の表へ出ている状況なら、肉眼や双眼鏡で素早く探した方が効率的です。そこで毎回サーマルを取り出して全面をスキャンしていたら、その時間自体がロスになります。
流し猟なら、その間に次のポイントへ移動できたかもしれません。歩き猟でも、鳥が移動する可能性があります。
だから、サーマルで発見できる個体が増えることと、必ず猟果が増えることは同じではありません。
サーマルによって増える発見確率と、サーマルを使うために増える探索時間。その両方を考える必要があります。
サーマルが特に効くのは「普通に探すと難しい場所」
逆に価値が高くなるのは、肉眼や双眼鏡だけでは発見効率が大きく落ちる場所です。
日陰のボサ際、二番穂の中、枯草とキジの色が重なる場所、池の岸際、オーバーハング下のカモなどです。
こうした場所では、普通に双眼鏡で探し続けるよりも、一度サーマルで広く探してから怪しい場所を双眼鏡で確認する方が効率的な場合があります。
つまりサーマルは、常に使い続ける探索機材ではなく、肉眼・双眼鏡では探しにくい場面へ絞って使うくらいの運用が現実的だと思います。
サーマルで見えたからといって、そのまま撃てるわけではない
サーマルでは対象の本来の色が分かりません。
鳥らしいシルエットが見えても、狩猟鳥なのか、非狩猟鳥なのか、キジのオスなのかメスなのか、別の鳥なのかを確実に確認できるとは限りません。
環境省の銃による捕獲の講習資料でも、「対象鳥獣を確実に目視できる」ことが銃による捕獲の前提として示されています。また、安全指導資料でも、獲物の姿をきちんと確認するまで発砲しないことが求められています。
そのため、サーマルでは鳥が見えていても、肉眼や双眼鏡で対象鳥獣を確実に確認できないのであれば、その鳥を射撃対象にするべきではありません。
これはサーマルを鳥猟で使ううえで非常に重要な制限です。
「サーマルでしか見えない鳥」は、見つけても撃てないことがある
これはサーマルのメリットを少し複雑にする部分です。
サーマルの強みは、肉眼では見つけにくい鳥まで拾えることです。
しかし、その鳥が深い草や陰にいて、双眼鏡でも何の鳥か確認できないのであれば、発見できても射撃にはつながりません。
つまりサーマルには、発見能力は高いが、射撃可能な獲物を増やすとは限らないという側面があります。
ここは実際に使うまで分かりにくいところです。
基本は「サーマルで発見、双眼鏡で確認」
私は、サーマル → 双眼鏡 → スコープという順番で使います。
サーマルで「何かいる」と発見し、次に双眼鏡で鳥種や雌雄、状態を確認します。
そのうえで射撃可能な場所・距離・矢先を確認し、通常のライフルスコープで射撃します。
サーマルは双眼鏡の代用品ではありません。双眼鏡の前段階に追加する探索機材と考えるのが一番分かりやすいでしょう。
キジでは、背景に紛れた個体を見つけやすい
キジ猟では、サーマルの効果がかなり分かりやすく出ました。
特に、枯草、二番穂、日陰、土の露出した斜面などでは、オスのキジでも肉眼では意外なほど背景へ溶け込みます。
こうした条件ではサーマルが有効です。
一方、朝一番に開けた畑の中央へキジが出ているような状況なら、普通に肉眼や双眼鏡で探した方が速い場合もあります。
見つけにくい条件ほどサーマルの価値が上がるということです。
カモでも使える
カモでも簡単に試しましたが、相性は良さそうでした。
特に池の岸際やオーバーハング下などは、カモの羽色が背景と一体化して見落としやすい場所です。
サーマルなら、こうした個体を温度差から拾える場合があります。
広い水面を端から双眼鏡だけで探すより、一度サーマルで怪しい位置を見つける方が効率的な場面もあるでしょう。
ただし、カモでも最終的な種類の確認は双眼鏡で行います。
草や藪を透視できるわけではない
サーマルは透視装置ではありません。
手前にある草、枝、壁などの表面から出る赤外線を見ているため、その奥をそのまま透視することはできません。
薄い草の隙間から鳥の一部が出ていれば見つけられることがありますが、厚いボサの完全な奥へ入っていれば見えません。
仕留めた鳥の捜索でも同じです。
背景温度によって見え方は変わる
サーマルは「熱いものを見る」のではなく、温度差を見る機材です。
早朝は地面や草木が冷えているため、鳥との温度差が大きくなりやすく、比較的見つけやすくなります。
反対に日中、地面、石、草木などが日射で暖まると、画面内にさまざまな温度差が生まれます。
すると鳥だけが目立つわけではなくなり、探索が難しくなります。
サーマルを選ぶなら温度感度も重要
鳥猟用に考えるなら、センサー解像度だけでなくNETD(温度分解能)も見たいところです。
NETDは、どれくらい小さな温度差を画像として分離できるかを見る指標で、一般に数値が小さいほど高感度です。
HIKMICROも、NETDが低いほど微小な温度差を識別しやすくなると説明しています。
鳥は羽毛で断熱されているため、背景との温度差が小さい場面があります。そのため「サーマルなら何でも同じように鳥が見える」とは考えない方がいいでしょう。
夜に見えるからといって、夜間の通常猟に使えるわけではない
サーマルは暗闇でも使用できます。
しかし日本では通常の狩猟における銃猟は、日出前および日没後は禁止されています。
この記事で扱っているのは、合法な銃猟時間内での索敵機材としての利用です。
夜間に動物が見えることと、夜間に通常の銃猟ができることは別の話です。
結局、鳥猟にサーマルは有利なのか
実際に使った私の答えは、「発見能力は上がる。ただし、必ずしも狩猟全体が効率化するわけではない」です。
肉眼では拾いにくい鳥を発見できるのは明確なメリットです。
一方で、サーマルで探す時間が増える、サーマルだけでは鳥種を確定できない、肉眼・双眼鏡で確認できなければ射撃につながらない、普通に見える状況では使わない方が速い、という側面もあります。
だから私は、常時サーマルで探すのではなく、普通の探索では見つけにくい場所へ絞って使うのが実用的だと思います。
サーマルは「猟果を増やす魔法の機械」ではありません。
人間の目とは違う情報を追加して、発見の選択肢を一つ増やす機材です。
実際に使用したサーマルと実猟検証
この判断は、実際にサーマルをキジ・カモ猟へ持ち込んで試した結果です。
使用したのはHIKMICRO CONDOR CQ35Lです。
実際にキジがどう映ったのか、表示モードによる違い、サーマルで発見できた具体的な場面などは、画像を含めてnoteで詳しく紹介しています。